リステリア食中毒、もっと警戒したほうがよい
というわけで、リステリアです。
国内感染について、京都府立医科大に所属する研究チームから昨年12月、注目すべき論文(ケースレポート)が出たので、ご紹介します。
リステリアは、4℃以下、12%の高塩分でも増殖する
論文をご紹介する前に、若干の背景説明をします。
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes、以下リステリアと呼びます)は、河川や動物の腸管内などにいる細菌。加熱すると死にますが、4℃以下の低温や12%食塩濃度下でも増殖できるという大きな特徴を持っています。そのため、欧米ではナチュラルチーズや生ハム、スモークサーモンなどにより食中毒が起きています。
健康な人では発症するのはまれで、症状が出ても発熱を伴う胃腸炎を発症するぐらい。ところが、高齢者や妊婦、免疫不全の人では敗血症、髄膜炎などになり、死亡事例もあります。妊娠中に感染すると、死産や流産等につながる場合があります。
日本では2014年、非加熱食肉製品とナチュラルチーズ(ソフト及びセミハードタイプに限る)にリステリアの基準値として100cfu/gが設定されています。これは、内閣府食品安全委員会が2012年、「健常者では、リステリアが喫食時に10,000cfu/g以下であれば食中毒のリスクが低い」と評価したことに基づきます。食品の汚染は広く認められるものの菌量は総じて低いことから、食べる前に加熱を要さないほかの調理済み食品(Ready-To-Eat食品=RTE 食品)には、基準値は設定されませんでした。
心配なのは、日本では著しく関心が低いこと。多くの人が軽症で済む、ということもありますが、厚生労働省の食中毒統計に上がってこない、というのも大きな理由と思います。リステリアは、非常に高濃度に汚染された食品を食べた場合はすぐに症状が出ますが、通常は食べてから1カ月程度しないと発症しません。そのため、多くの人が食中毒とは受け止めず、原因食品の特定が非常に難しいのです。
院内感染対策のデータから、年間に200人程度のリステリア感染患者が出ていると推定されているのですが、原因となっている食品はよくわかりません。
2001年に、ある国産チーズでリステリア汚染が見つかり、食べた人をたどっていったところ、86人が感染しており38人は胃腸炎や風邪などの症状があった、ということがInternational Journal of Food Microbiologyで報告されています。でも、この集団感染も食中毒としては報告されていません。
京都府のクラスター解析が論文に
そうした背景を知っていると、今回出されたのが示唆に富む論文であることが見えてくると思います。
京都府立医科大学の医局員である坪井創氏らが、2023年6月27日から7月27日までに同大附属北部医療センターを受診した患者を解析したもの。11人は京都府丹後保健所管内の京丹後市や与謝野町、宮津市に住んでおり、発熱して受診しリステリアの菌血症と診断されましたが、重篤にはなりませんでした。この11人の菌を解析した結果、単一クローンに由来することが分かったのです。11人はばらばらに住んでおり、自宅でなんらか特定の汚染された食品を食べて感染した、と推定されます。地域の保健所が調査をしたものの、原因食品は突き止められませんでした。
論文では、日本のリステリア症診断と公衆衛生対策について、2つの問題点が指摘されています。
①京都府立医科大の病院では、発熱で救急外来を受診した患者すべてに血液培養検査を実施しているため、リステリア菌に感染していることがわかり、遺伝子解析も行われて単一クローンであること、つまり特定の食品が感染源である、と推定された。しかし、一般の診療においては血液培養が必ず実施されているわけではなく、リステリア感染の散発発生は不明のままとなる可能性がある
②菌血症は感染法の対象外。リステリアによる食中毒自体は食品衛生法に基づき届出義務があるが、リステリアによる菌血症のクラスターは、たとえ食品媒介性であっても法的に届出義務がない。日本のサーベイランス体制には欠陥がある
なるほど。この論文を読んで、リステリアによる集団食中毒は、実は国内でもけっこう起きているのかもしれない、と思いました。こんな狭い地域でクラスター発生していても原因食品を突き止められないのですから、対策の難しさがよくわかります。
ナチュラルチーズのほか、魚介類加工品なども注意
原因がわからないと対策を打てないではないか! そう思われるかもしれません。しかし、ヒントはあります。
食品安全委員会の評価書では、さまざまな食品から少ない菌数ですが検出されていることが記述されています。リステリアは、河川水や家畜の腸管内に一般的にいることに加え、菌株の中には、食品製造環境中に適応し、食品の接触表面に接着して殺菌剤に高い抵抗性を示す株もあるとのこと。制御が難しいのです。しかも、多くの人が冷蔵、高塩分の食品中では菌は増えないと思い込んでいるので、ついつい管理が甘くなります。
評価書の表45で、国内流通食品の汚染実態がまとめられています。
乳製品合計で分離率1.22%、非加熱喫食食肉製品(生ハムやテリーヌなど)3.89%、生鮮魚介類合計(マグロ、アカガイなど)が2.26%、魚介類加工品合計(明太子、スモークサーモンなど)が7.19%、一夜漬け合計46.67%……などが目立ちます。
検査数が少なく、菌量が測定された食品データも少ないため、これらの数字を一人歩きさせてはならないでしょう。総じて菌量は少ないことも説明されています。とはいえ、やっぱり注意すべき食品があることも見えてきます。
基準値が設定されている食品を扱う事業者は、管理を厳しく行っています。また、水産加工を行っている大手企業は、基準値が設定されていない魚介類や加工品でリステリアが比較的多く検出されることを重視して、検査を励行し対策しています。一方で、魚介類の取り扱いは比較的小規模で設備の整わない事業者が携わっていることが少なくなく、懸念は残ります。
海外に目を向けると、加熱殺菌していない生乳からナチュラルチーズを作るフランスでやはり、リステリア食中毒が頻発しています。欧州食品安全機関(EFSA)も昨年12月、リステリア食中毒が増えているとして、Serious Listeria infections rising in Europe, EU report warns を公表して注意を呼びかけました。この中では、fermented sausage(サラミソーセージなど)が挙げられています。
高齢者、妊婦、免疫不全の人はとくに注意を
食品におけるリステリア汚染の程度は低く、しかも、多くの人は感染しても軽症で済みます。一方で、高齢者や妊婦、免疫不全の人が、たまたま運悪く、菌数の多い食品を食べてしまうと重い影響を受ける可能性がある。だからこそ、情報をきちんと伝えなければなりません。
厚生労働省は、妊婦に対してはチラシで注意を呼びかけています。ただし、十分に理解されているとは言えないでしょう。多くの妊婦さんが「チーズはダメ」と記憶しているようで、私もしばしば質問を受けるのですが、プロセスチーズはナチュラルチーズを溶かして作っているので、リステリア食中毒の懸念はありません。また、包装した後に加熱殺菌したナチュラルチーズも売られていて、これも問題ありません。包装後加熱のチーズは、パッケージに表示されているので区別がつきます。一方、シュレッドチーズで加熱用と表示されたものは、必ず加熱調理しなければなりません。
そうした細かい情報が妊婦さんに伝わっていないのです。また、高齢者や免疫不全の人も含め、魚介類加工品などほかのRTE食品に対する警戒は不足しています。自身の体と相談して避けてほしいし、食べたいのなら加熱して食べてほしいと思います。
<参考文献>
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